マルチ銅オキシダーゼに関する基礎研究

漆ラッカーゼの異種発現

マルチ銅オキシダーゼの研究は,19世紀末の漆樹液を固化させる酵素"漆ラッカーゼ"の発見に始まります。生物化学研究室では,2002年に初めて漆ラッカーゼのcDNAクローニングに成功し,アミノ酸配列を決定しました。現在, 世界のどこにおいてもまだ成功していない漆ラッカーゼの異種発現に挑戦しています。微生物起源のラッカーゼには多くの成功例があり,デニム地の脱色やチューインガムに添加され口臭予防などに利用されています。植物ラッカーゼと微生物ラッカーゼは全く基質特異性が異なるため実用価値が高く,異種発現成功が待たれています。

触媒反応機構の解明

マルチ銅オキシダーゼは基質を酸化して余った電子によって酸素を電子還元して水を生成する反応を触媒します。これまで約1万種知られている酵素の中でも,酸素を4電子還元することが出来るのは酸素呼吸鎖の末端酸化酵素(シトクロムc酸化酵素)とマルチ銅オキシダーゼだけです。われわれは,ラッカーゼ,ビリルビンオキシダーゼ,大腸菌の一価銅オキシダーゼCueOの銅結合に関与するアミノ酸残基や酸素へのプロトンドナーとなるアミノ酸残基を置換した変異酵素を作製し,混合原子価状態,部分的銅欠損状態を人工的に作り出すことによって,2種類の酸素還元反応の中間体を単離することに成功しました。現在,兵庫県立大学のグループと共にこの反応中間体の構造解析に挑戦しています。

基質認識機構の解明

マルチ銅オキシダーゼは多様な基質に対する反応性を示します。なかには有機物ばかりでなく金属イオンを酸化する酵素もあり,遷移金属イオンの輸送や解毒にも関わっています。われわれは,生体微量元素のホメオスタシスと遷移金属イオンの輸送および解毒機構を解明するために,大腸菌CueOを材料に如何にして金属イオンを特異的に基質とすることができるかという命題解決に挑戦しています。
マルチ銅オキシダーゼに関する応用研究

産業用酵素の高発現

マルチ銅オキシダーゼは多様な基質特異性を示すことから,極めて実用性の高い酵素です。従って,実用的価値の高い酵素を大腸菌,酵母,カビなどの微生物を用いて大量発現させることができればそれだけで意義あることです。我々のグループでは異種発現系の構築に力を入れており,それらのいくつかについては特許申請にまで至っています。

臨床検査用酵素の開発

ビリルビンオキシダーゼは臨床検査の場において肝機能の検査薬としてひろく使用されています。しかし,ヘムの分解物であるビリルビンは生体ではさまざまなフォームで存在しており,野生型酵素では直接ビリルビンと間接ビリルビンの個別定量が出来ません。われわれはタンパク質工学を用いたビリルビンオキシダーゼの機能改変によって,臨床検査におけるこの酵素の適用範囲を広げようとしています。
LinkIcon組換え型ビリルビンオキシダーゼの製造法特許

ヘアカラー用酵素の開発

市販のヘアカラーでは過酸化水素などの酸化剤を用いて色素を形成するので,どうしても変異源性のある色素が出来てしまいます。我々の開発した変異型マルチ銅オキシダーゼによってヘアーカラー色素を形成すると変異源性がない安全な色素がつくれます。この成果は化粧品会社と共同で国際特許申請するにまで至っており,製品化を目指した大量生産模索の段階に入っています。
LinkIcon改変型CueOによる染色に関する国際特許

バイオ電池

マルチ銅オキシダーゼは,電極から電子を受け取って酸素を水に還元することもできます。これは水素ー酸素燃料電池のカソードの反応と同じです。アノードの酵素と組み合わせることで,白金触媒の代わりに生体触媒(酵素)のみを用いた環境負荷の小さいバイオ電池を作ることが可能です。我々は京都大学及び筑波大学のグループと共同して,バイオ電池の開発を行っています。

LinkIcon京都大学大学院農学研究科加納研究室

LinkIcon筑波大学大学院数理物質科学研究科辻村研究室

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